鮎
新米親父はアユカラーが好きだ。
それは多分、鮎は新米親父の釣りの原風景であるからだ。
夏休みには父親に付いて和歌山県の日置川(ひきがわ)に行くのが楽しみだった。
合川ダムなんてものが出来る前で、
釣り宿で“上流でダム出来るらしいわ〜”、
“いらんことするの〜”なんて交わされていた会話を思い出す。
丸太のような鰻や、日置川ではめったにみられなかったテナガエビを発見した時の興奮。
釣り宿で作ってもらった昼飯のにぎりめしの飯粒で釣った、ハエやハヤ。
親父は子供だった新米親父に道具を用意することなく、
のべ竿と道糸やハリス、針がごちゃっと入った道具箱を置いて
さっさと1人で鮎釣りに興じていた。
仕方がないから、子供ながら“学研・つりのひみつ”なんて本の知識をたよりに
適当に仕掛けを作るのだ。
そんな仕掛けでも面白いように雑魚は釣れてくれた。
釣り宿で食べた鮎のわたのほろ苦さや
カブトムシが飛ぶ音に驚いたのもここだし、
当時はUCCしかなかった缶コーヒーを初めてのんだのもここだ。
しかし、ダムの工事が始まり、
親父は日置川には行かなくなった。
新米親父の夏休みそのものでもあった、日置川。
バス釣りをするようになっても合川ダムに行かないのはそんな記憶が影響しているのかも知れない。
そして新米親父も家庭を持ち、
家族旅行で白浜に毎年行くようにしている。
掛け替えのない新米親父の記憶になった日置川の鮎のように、
子供達も夏休みの思い出を記憶に焼き付けてくれるだろうか?
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